都会の片隅の「ほっこり」とする”共同台所”の物語 ー 成田名璃子「東京すみっこごはん」(光文社文庫)

2018年12月1日土曜日

成田名璃子

t f B! P L

 都会の路地の奥のほうに


一 一ヶ月ごとに更新の会員制とします

(略)

四 くじであたりを引いた人が、その日の料理当番です

五 当番は、レシピノートから好きなメニューを選んでつくりましょう

  その時、なるべきレシピ通りにつくってください。必ず野菜を入れること

(略)

八 たとえ出来たお料理がまずくても、文句を言わないで食べましょう

九 食べ終わった食器は、ちゃんと自分で洗いましょう

十 店の奥の椅子は永久予約席です。足りない時以外は動かさないようにしましょう


というルールが決められている「共同台所 すみっこごはん ※素人がつくるので、まずい時もあります」という張り紙がされている、古びた一軒家がある。

ここは、会員が集まって、その日の当番が夕食を自炊して、皆でそれを食べる、という不思議な場所。そんな「すみっこごはん」を舞台にした、現代都市の”すみっこ”の人情物語である。


【収録は】


「いい味だしてる女の子」

「婚活ハンバーグ」

「団欒の肉じゃが」

「アラ還おやじのパスタ」

「楓のレシピノート」


の五編の短編仕立て。「会員制」とはいっても、その日食事をする人数の調整さえつけば、その場で入会OKという、ゆるゆるの会員制なので、メンバーはかなり無造作に追加されていくのだが、今巻の主な登場メンバーは、女子高校生の「楓」、彼女の幼馴染「純也」、大手企業のアラサーのOL「奈央」ちゃん、板前の「金子」さん、主婦の「田上」さん、ミュージシャンの「一斗」くん、区役所の公務員の「丸山」さん、ごま塩頭の人相の悪い「渋柿」こと「柿本」さんといった面々である。


【あらすじと注目ポイント】


第一話の「いい味だしてる女の子」は、「楓」という女子高校生が主人公。彼女は過家具職人の祖父と二人暮らしで、両親は彼女がまだ小さい頃離婚し、母親一人で育てていたが、病気にかかり、「楓」を祖父に託して病死している。


そんな彼女は、今、学校でのいじめと、祖父との折り合いの悪さに悩んでいて、その辛さを紛らわすため、街をうろついているうちに、この「すみっこごはん」に引っ張り込まれてしまう、という、まあ、このシリーズのスタート、という位置づけである。


料理はもともと不得意な彼女だったが、メンバーたちと料理をし、食事をしているうちに心も和んでくるし、幼馴染の「純也」との仲も修復してくるのだが、いじめはどんどんひどくなり・・・、という展開。


最後のところで、唐突に、いじめも終わりハッピーエンドとなるのだが、いじめを仕掛けてきた張本人の女の子が、転校先で因果が巡ってくるんじゃないのか、といらぬ心配をしてみる。


第二話の「婚活ハンバーグ」はアラサーで独身の「奈央」ちゃんが主人公。

彼女は以前の大失恋の痛手がきっかけで、この「すみっこごはん」の常連になったのだが、料理の方は大・大下手っぴぃで、毎日のお弁当は、惣菜屋の弁当つめかえサービスの利用者という女性である。


そんな彼女が、同期や後輩の結婚話と、「すみっこごはん」のメンバー「一斗」くんに背中を押されてネットの「婚活」サイトに登録し、婚活活動を始めるのだが、今までの失恋経験が災いして、なかなかその先の一歩が踏み出せない。

派遣の女の子からの「お局」宣告に落ち込んだ彼女が訪れたライブハウスで出会ったのは・・・、という展開。


売れないミュージシャンの「一斗」くんの


自分の全部を誰かに幸せにしてもらおうとすると、すごく苦しくないですか?奈央さん、今までの彼に、自分の真ん中を明け渡して、しんどくなかったですか?(P179)


という言葉をバネに、ハンバーグに挑む奈央ちゃんが可愛らしいですね。


第三話の「団欒の肉じゃが」は、タイからの留学生「ジェップ」くんと「シブガキ」こと「柿本」さんが主人公。


慣れない日本生活と、アジア人には冷たいホストファミリー、いいがかりをつけてくるバイト先のコンビニの客が彼の心を固くし、さらには、タイに残した妹は自分の力で生計を立て始め、彼が日本に留学した目的が見失われ始めている。

意欲をなくし、日本を嫌いになり始めたジェップのもとに、あらわれた柿本は、すみっこごはんに彼を連れて行く。それでも、心の隙間が埋まらない彼に、柿本が行ったことは・・という展開で


いいか。からっぽじゃねぇ人間なんているわけねえだろ?人間なんて、一生からっぽのまま生きていくんだ・


という柿本の言葉は、やけっぱちながら、ある意味、真実をついてる気がしますな。


第四話の「アラ還おやじのパスタ」は、料理上手の「丸山」さんが主人公。


二人暮らしの彼の妻は活動的で留守がち。それをいいことに、彼の最近の楽しみは」「ゆうたん」という若い女性が書くブログである。どういうわけか、この女性のブログの記述に一喜一憂する丸山さんなのだが、ある時、すみっこごはんの経緯を調べてみようと思い立つ。彼の調査で明らかになる「すみっこごはん」の秘密と。「ゆうたん」のその後は・・・という展開。


この「ゆうたん」という女の子は同棲相手との結婚を望んでいるのだが、彼氏のほうは借金までこしらえている上に、結婚には全く乗り気でない。そんな彼氏に憤慨する丸山さんなのだが、なぜ、彼は「ゆうたん」にここまで感情移入するのか?、っていうのが話のオチである。


第五話の「楓のレシピノート」は、「すみっこごはん」ができあがった経緯が明らかになる話。子供を置いて早逝する親が、子供に残そうとする「想い」が、とても泣かせます。なので、レビューはここまで。原本を読んで泣いてくださいな。


【レビュアーから一言】


いやぁ、ひさびさの「人情噺」であります。そして、噺のつなぎにでてくる料理が、楓や奈央ちゃんなど、人によっては、とてもひどい仕上がりになってしまうというところもなんともいい味付けになってます。

微笑ましくも、泣かせる話の連続でありますね。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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