西村 淳「面白南極料理人 笑う食卓」(新潮文庫)

2006年7月18日火曜日

グルメ

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 第30次と第35次の南極観測隊で名料理人を務め、あの有名カメラマン、不肖・宮嶋氏の脳味噌にもしっかりと記憶の爪痕を残した、西村淳さんの「面白南極料理人」に続く第2作。

 

といっても、三度めの南極観測に赴いたわけではないので、「南極面白料理人」で書ききれなかった、様々なコボレ話といった感じで考えた方がよいだろう。

 

しかも、である。今度の本は、レシピ付き、さらには、一口メモのような「ポイント」までついている。

 

しかし、まあ南極観測隊の面々、ほかに楽しみといってよいものがないせいか、食欲や食へのこだわりの方も相当である。 


例えばラーメンでも 

 

南極での労働が彼らの体に少しでもカロリーを摂取するように要求したのか、普通の隊員で二杯、調子の良い人で三杯、「麺類命!」を自称する江尻隊長に至っては、三玉オーバーを毎食要求してきた。 

 

といった具合のため、みるみる麺の在庫がつきて、自分達で麺打ちをする羽目になったり、

 

日本国内では高級品の「伊勢海老」だが、何度も続くと余ってくる。そこで工夫した伊勢海老料理が 

 

次にトライしたのは、すり身。それも「海老しんじょ」だとか「クネル」だとか、お上品なやつではなく、味噌・長ネギ・片栗粉でガッチリと揚げるすり身天ぷらかまぼこにこだわった。 

普通の料理人は、やすい材料を少しでも付加価値を出すべく、包丁を入れたり、煮たり、焼いたり、飾り付けをしたり、盛りつけるものだが、この時はいかに「伊勢海老」から、そのお上品なムードを無くしてしまうかが重要な課題だった。 

そして結果は大好評となった。 

山盛りにした「すり身団子」はみるみる減り、完食された。 

  

という風に一種豪快な贅沢料理をしてみたり、 

 

そしてこんな環境の中では,自然に速やかに体を温めてくれる料理が主役となってくる。 

ただし余った汁を捨てるなんて暴挙をするはずがなく、残った汁を次々と新しい鍋に変えていった。 

これが今でも多分観測隊で愛用されているであろう究極のリサイクル鍋「二泊三日鍋」の始まりである。 

 

といった風に、食材の調達がなにせ大量である上に極限の自然の中で隊員の食欲にも変化が生ずるせいか、物資が豊富なのか乏しいのか、贅沢なのか節約しているのだが、よくわからない状況が生まれてくる。

 

そして、これを最も端的に現すのが、乾物の話だろう。 

 

乾物といっても 

 

発電機が設置されている機械棟の隅っこにつくられていた食糧庫は、常時気温がプラス20°C以上湿度数%で、乾ききった室内は、乾物といえども数%を残しているであろう水分をますますカラカラに乾燥させ、ほとんどミイラ状態にして 

 

このため、 

 

・色あせたかりん糖→干しなまこ 

・ひげの落ちた小さなたわし→干しアワビ 

・雪男の頭皮→フカヒレ 

 

といった感じで、高級食材を面妖で奇怪な物体に変えてしまう。 

 

と、まあ、なんとも南極というところは、環境も激烈なせいか、一種豪快な状況に人間の暮らしを変えてしまうものらしい。なんだか、こうした話を読んでいると、自分の今の身の回りのいろんな出来事を笑い飛ばそうな感じになってくるから不思議である。ちょっとした暮らしの圧迫感にさいなまれているなら、こうした南極本はお薦めである。 

 

最後に、南極では

 

観測隊では、このボンヤリした状態のときは個人が何かの世界にポカリと入り込んでいる時で、この時無理に話かけたりすると、心のバランスが微妙にくずれ、後々決して良いことはないので、放心状態もしくは視線を宙に飛ばしている隊員がいても、話しかけるのはやめるようにみたいなこと 

 

を言われるらしい。これは、ひょっとしたら南極だけではなく、普通の世界でも、どこかに旅してそうな人を見かけた時には共通して気をつけなければいけないことなのかもしれないね。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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